手取川の最上流部にある「万才谷」
白山砂防では、とても重要な場所です。どの辺りにあるかというと…
※ ☝ 国土交通省 金沢河川国道事務所さんのHPよりお借りしました。
甚之助谷の隣り、登山道からだと、南竜水平道から小さく見ることができます。
ここに造られた砂防施設が今回の目的地。青色の線と文字で示されています。
赤線で囲まれたところは「甚之助谷地すべりブロック」です。
「甚之助谷地すべり」とは?
標高1,200~2,600メートルに位置する高山地での大規模地すべりで、現在でも毎年、特に融雪期に最大で、一年に10~15cmもの大きな移動を観測しています。土塊の総量は、東京ドーム30杯分にも相当し、動き続けた場合、下流域へ甚大な被害が出る可能性があります。国は5つのブロックに分けて対策工事をしています。
谷が動き続けているって怖いですよね⁈
この地すべりを防ぐために 地下水を抜く という作業をしていたのが、昨年おじゃましたこちら
「甚之助谷左岸ブロック集水ボーリング工事」の真っ最中でした。
今思えば、堰堤に見惚れるばかりで、ホントのところは何もわかっちゃいなかった!
今回は「万才谷排水トンネル(工事)」これは…
という工事(すでに終わっています)。
前置きはこの辺にして、そろそろ出発しましょう!
目次
◎砂防新道を歩こう(中飯場から歩荷気分で)♪
スタートは、別当出合ではなく、白山砂防の基点「中飯場」。
ここまで車で来れるというのが嬉しかったりする(笑)
不動滝が目の前!この滝の上流が万才谷。
天気はいまいちですが、カンカン照りも辛い。雨も悪くないかも…
この「さ・ぼ・う・し・ん・ど・う」ですが、“なぜに?” と思ったことはありませんか?
ここは、もともとは、白山で砂防工事をするために造られた作業道なのです。それを一般の登山道としたわけですが、およそ100年前(大正末期)にこの道を歩いた人たちの覚悟は、相当なものだったに違いない、と思うのです。
資材を運ぶために、山麓と現場を行き来した強力たちを想像してみる。そして今日だけはこの道を、にわかだけれどいっぱしの “歩荷” になった気分で歩いて見ようと思いました。ゴールは、御前峰ではなく、砂防現場だから…。
雨のせいだろうなぁ、登山道のまん中に “ハクサンマイマイ” 出現!
南竜分岐から水平道へ入ると、甚之助谷の崩壊斜面と小屋の赤い屋根♪
◎南竜山荘で一泊(水の恵みを享受)♪
南竜山荘に到着、荷ほどきをしてから夕食までの時間、南竜ヶ馬場野営場あたりを軽く散策しました。
南竜山荘の前面に建つ建物が、現場(南竜)事務所であり宿舎だったそうです。今は使われていないけれど、新しい工事が始まったら、また使われるのだろうなぁ。
右下の建物が現場事務所(大)と設備小屋?(小)
せっかくなので、南竜山荘のアメニティを紹介♪
広い食堂♪
談話室 兼 売店
大部屋上段(3帖)下段(2帖)/仕切付
カーテンもついて半個室空間-快適です
それだけじゃなく
何が言いたいかというと、こんな高地にあって水に困らないのが凄い!
詳しくはこちら ☞ 南竜山荘
翌日、いよいよ現地へ向かいます。
山荘からは30分以上の登山となるらしい
現地見学会(通勤は登山)♪
朝食を済ませ、荷物をまとめたら、出発です!
木道が延びる湿原(南竜庭園)のなかを行きます。知ってる人は知っている、別山へ至る登山ルートです。
立入禁止のロープを外し中へ、こんなところに道があったなんて気がつきませんでした。
了解です( ̄ー ̄)
きちんと整備された歩きやすい道ですが、ここは管理用通路で工事のとき使っていたのとは少し違うということです。
分岐を右へ折れたら、笹とシラビソの小径を行きます
左手に第2号支柱が見えました
着きました!
◎万才谷排水トンネル 吞口
吞口(ノミクチ)というのは、入口のことです。ここで川の水を施設内に落として、排水トンネルへと導きます。
スリットから落ちた水と小石を溜める沈砂池
の 横にある立坑(D-27m)
沈砂池から水だけが立坑へ流れ込み、排水トンネルにつながると、出口の赤谷まで、387m 導水するしくみ
・立 坑:内径 3.5m、深さ 25.63m
・集水ボーリング:10 本(80m × 9 本、73m × 1 本)
・排水トンネル:延長 385.8m、高さ 2.05m、幅 2.2m
周辺の岩を見ると縦・斜め方向に亀裂が入っているのがわかります。
ここから融雪水や雨水が浸み込み、甚之助谷へと流れています。表面を覆っているのは安山岩などの火山噴出物ですが、その下には谷方向に傾斜した手取層群の地層があります。滑り面(頁岩など)に達すると地すべりが起こりやすくなります。また、地下水で緩んだ地盤は脆く、「崩れ」を起こしやすくなります。
ここに溜った河川水が地中に浸み込む前に取り込んであげることで、地すべりを抑制していることになります。
正面の山の山腹に水平道(南竜分岐-南竜ヶ馬場)が見えますね、あれは南竜分岐と南竜ヶ馬場をつなぐ道。
下流の河床に水が流れているようには見えません。その先は不動滝ですが…。非融雪期である今の時期、流れ落ちるのは谷に沁み込んだ水ということになるらしい。(このブログの最初の写真に見られるように…)
◎万才谷排水トンネル 吐口
来た道を分岐まで引き返しそこから赤谷へと下りて行きます。
右上に、索道の山頂停留所の屋根が見えて、左下に、トンネルが見えます。(排出中♪)
役目を終えた鉄骨の作業場
トンネルの掘削にかかる前の準備工事(索道整備)は、5年…。工事期間も、雪による作業時間の制限があって、工期の6月から10月のうち、じっさいに掘削作業に入れるのが7月中旬だとか。10月半ばには、閉鎖作業に入らなければならないとなると、なるほど、13年もの年月がかかったのも頷けます。
その傍に完成した「万才谷排水トンネル 吐口」
吐口(ハキクチ)というのは、出口のことです。万才谷から、ときには硬い安山岩溶岩を破砕し、387mも掘りすすめたトンネルです。
今は非融雪期だからかな?水は少ないようですが…これは、もー入ってみるしかない♪
中から外をみたところ
トンネル内の高さは2mほど、直立歩行は難しい。上半分はライナープレートという部材を貼り継いでいます。裏側はモルタルを充填してます。下半分はプレキャスト水路、やはり現場打ちよりこっちですかー⁈ きれいですね♪ ひやりとして涼しかったです♪
<万才谷排水トンネル>
・トンネル内径 半径1.0m
・万才谷取水堰 高さ6.9m、幅24.5m、長さ16.7m
・万才谷縦坑 高さ27m
・赤谷減勢工 長さ9.5m
・仮整備(索道 長さ約1.0km、支柱2本、停留所2ヶ所、モノレール 一式)
毎日毎日、往復1時間以上、通勤が登山だなんて凄すぎる。(わたしなら山歩きが嫌になるんじゃなかろうかー苦笑)。
(別山へ行くために)渡渉するだけだった赤谷、緑が多いなー♪
対岸の山腹からは、谷に落ちる幾筋もの沢水が見えます。今年は猛暑で、平地では雨が降らない日が続いていますが、ここは、白山。上昇気流は、変幻自在に形を変え、雨も降らすし霧もよく立ち込める。水の神さまがいるというのは本当らしい(笑)
この樹脂製の階段、153段あります。じみにきついです(笑)
白山が火山なのだということを思い知らされます。
30分かけて南竜山荘に戻り、下山となりました。
たまたま、枯れシラビソが2つの谷を分かつようにまん中に直立してた。なんか感慨深い…。
拡大図
なぜって、この道を歩くたび、思いを馳せてきた光景だから…。一体、何?から、謎解きがどんどん進む楽しさ。甚之助谷地すべりに関する理解が一気に深まりました。貴重な体験をさせていただき、感謝です♪
現場見学を終えて
くり返しになりますが、白山登山を始めてからずっと気になっていた砂防風景のひとつがこの、水平道から見える「万才谷」での工事風景でした。初めは、谷の名まえさえわからず、何度も白山を歩くことで理解に努めました。御舎利へ行く途中の坂から赤谷を見下ろし、油坂を下りたところで下流に見える建屋の屋根にときめき、いつかその場所へ行けると信じてきました。夢叶ってこんなに嬉しいことはありません。
排水トンネルの呑口側、吐口側、索道支柱がそびえる山頂の風景、その両方を行き来して感じたことは、この工事に関わった人たちは、なんと凄いことを成し遂げたのだろう、ということでした。
高山ですよ、ヘリと索道施設しか輸送手段のない奥地で、これほど完成度の高い施設に出会うとは…。じつは、以前、飛島建設さんがつくられた映像(youtube)「もうひとつの白山(通水編)」を、見ていました。今回再び見直して、やはりこの「万才谷排水トンネル工事」は、世界に自慢できる偉業だ、と感じました。完成に掛ける思いも、職人魂もカッコいい!
ひとつだけ残念だったのは、その工事中の現場を見ることが叶わなかったこと。コロナがなければな…と少し恨み節(笑)。こんな高地で施工されたとは思えないほど、端正で美しかった。日本(人)の土木技術に拍手喝采です!
甚之助避難小屋で休憩するひとは多いけれど、目の前に広がる崩落斜面が何を意味するのかを知るひとはそう多くはないと思います。標高2,000mの高地で(人知れず)「いい仕事してる」砂防施設とその建設に全力を注いだ人たちのこと、自分なりに伝えていきたいと思いました。
「お花だけじゃないよ、白山は」と言いたいですね♪
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